前回もちょっと書きましたが、この時期に主人のAさんが来ていたのは、今年は職場のみんなが1ヶ月の夏期休暇をとる8月に働き通しだったので9月の終わりから10月のはじめの1週間と、10月の半ばの1週間と2回に分けて休暇をとることにしたからなんですね。それでAさんと二人でいろいろと計画を練った結果、かの有名なオリエント急行に乗って旅してみようということになりました。写真は車窓の雰囲気。
「本物」のオリエント急行は今年の年末で廃止になってしまうそうですが、いわゆるクリスティの小説に出てきたオリエント急行というのは今回私たちが利用したVenice Simplon Orient Expressなんですね。予約のときからすでにそうでしたが、ヴェネツィアの駅でのチェックイン、発車を待つまでのアペリティーボの手配、レストランカーでの食事(フレンチのフルコース)、コンパートメント内でいただくコンチネンタルの朝食、到着駅のブダペストの名産であるフォアグラを使いつつもオリエンタルな食材も入った非常にクリエイティブなモダンフレンチのランチなど、とにかく何から何から非常に至れり尽くせりで満足の旅となりました。
列車は1920年当時のモデルを使ってあってマホガニーの内装がぴかぴかに磨いてあり、座席もゴージャスかつ清潔でパーソナルスチュワードのサービスも細かいところまで行き届いているといった感じで非常に良い印象です。食事にはエシレのバターが出てきたのですが私がいつもエシレのバターに出会う度にかすかに感じていた不便:「バターをとりづらい」が専用の陶器の入れ物で解決されていて感激しました。やっぱり専用のものがあったんですね。これを使うだけでとてもエレガントにバターを使うことができます。この容器に他の利用法があるかどうか分からないところが問題かもしれませんが。
オリエント急行のシグニチャルートはイタリアはヴェネツィアからイギリスのロンドンだそうです。私たちがハンガリーのブダペストに行ったルートを同じように行き、2日間ブダペストに宿泊、また電車に戻ってオーストリアはウィーンを経由しスイスの田舎を通ってフランスはパリへ。さらにそこからドーバー海峡を渡ってイギリスに渡るそうです。私たちの目的地も実はロンドンだったのですが、日程的にAさんの休暇の予定と合わず、ブダペストから飛行機でロンドンまで行ったのでした。
寝台列車ってそれだけで心がわくわくするし、たったの1泊の車内でしたがすごく充実して様々な思い出ができました。オリエント急行ならではのブティックカーもあってお土産もいろいろと売っていました。私は500部限定のクリスティの本を思わず買ってしまいました。ちょっとクリーシェですが装丁が素敵なので我慢できなかったのです。アガサ本人のこの列車に乗った感想のエッセイの一部も載っていてファンとしては嬉しい限りです。はっきりいって彼女の本は全部持っていて実家にずらりと並んでいるのにまた買ってしまった、というかすかな罪悪感がなきにしもあらずですが、懐かしくてぱらぱらと読んでいたら、そういえば英語で読んだことはなかったことに気づきました。エルキュールはフランス語で「モナミ」といっていたのではなく「モンシュー(ル)」と言っていたのですね。また灰色の脳細胞とは良く訳したなぁと後で思いましたが直訳は灰色の心(ハートではなくマインド)。いろいろと味わい深いと思ってしまいました。ちなみにこのブティックカーでAさんは職場のみんなとブリッジをするのでカードを買ってましたがアールデコの1920年なデザインで私も欲しくなるほど素敵でした。しかも、カードある?と聞いたときには無くて残念に思っていたところ、あとで食事をしている席にわざわざブティックカー担当の人がやってきてくれて「最後のひとつが見つかりましたがいかがですか?」とわざわざ教えてくれたのでした。
停車駅のウィーンで異国の「鉄な方々(こちらやこちらを参照)」たちを発見したり、ブダペストでも楽しい観光ができたりできて良い旅でした。Aさんありがとうね!